江戸時代の農民の家計簿

江戸時代の『柳菴雑筆(柳庵雑筆)』という本に、ある農家の家計の概略が書かれている。
『江戸物価事典』で引用紹介されていて知ったのだが、原本を「国文学研究資料館」(https://www2.dhii.jp/nijl_opendata/searchlist.php?md=thumbs&bib=200020209) のサイトで見ることができるので、そちらも参考にしながら書いてみる。

そこに書かれている農家の規模は、耕作する田畑の面積でわかる。
1町歩の田と、5反の畑があり、これはほとんど専業農家といえる。

田が1町歩というのは、規模は大きいほうだが、借地である。
田に稲の種を1石ぶん蒔き、収穫は籾40石、脱穀すると米20石となる。
20石のうち、年貢と諸負担で5石、地主へ5石を納め、残り10石が実収である。
年貢は、1町歩の基準量10石程度(収穫量ではない)の4割の4石程度のほかに、若干の諸負担というのがある(助郷などの金銭負担などが予想される)。地主へ5石とは、小作料のことで、年貢関係と同額となっている(この本以外の他の例では、もっと安い小作料の例もある)。

畑は5反である。
収穫は大根のみで、2万5000本という多量だが、あるいは実際例ではなく概略を説明するために単純化して表現したものかもしれない。野菜(大根)の売上は135貫文ほどだが、経費である肥料代・船賃・運賃を差し引いて、28貫750文が、野菜(大根)の実収入である。
他に麦が6石ばかり(畑3反にて)。
野菜の金額の単位は貫と文だが、船賃だけが2両2分で単位が異なる。差し引き計算では船賃を文に換算して計算したようであり、1両=6500文としている。(500単位が区切の良いものと見なしたための数字だろう。私は実際に近い1両=6400文としている、6400文なら、1朱=400文となるので暗算によってさまざまの計算がしやすい)
28貫750文の野菜の収入から、年貢を3貫文納めるという。残りは25貫750文となり、これは前記の換算法で、ほぼ4両になる。麦を売ればもっと増えるだろうが。
畑の年貢は、5反で3貫文(3000文)であり、1反あたり銭600文になる。
米1石=1両とすると、田の年貢は1反あたり0.4両(2600文)ほどなので、畑の年貢はかなり安く、田の年貢の1/4以下である。

田畑の年貢・諸負担等を納めた残りは、
米10石、麦6石、現金4両、これが全てである。
麦の価格は、『江戸物価辞典』の別項によると、米の90%または90%弱といったところ。
米と麦を現金化すれば、15両余り、野菜の4両とで、合計19両余になる。

ただし米10石と麦6石のうち、夫婦の主食として消費される分がある。
麦はほとんど食糧として消費される。
夫婦で、麦3石6斗、米1石余。
日雇が、麦1石8斗、米5斗。と書かれる。……江戸物価事典(133p)の「五升」は間違いで、原本は「五斗」である(画像参照)。日雇人の量を2倍すると夫婦(2人)の量になる。
ほかに雇人には給金として1両2分を支払う。雇人の食費の麦1石8斗と米5斗は、金額で2両と少々。合計で4両弱が雇人にかかる。
家族に子供があれば一人9斗ほど消費するという。

そのほかの米の消費は、正月の餅が3斗余、親類友達にふるまうのが2斗。
別に来年用の種籾として1石を確保(種籾の量か、米に換算した量か不明)。
米10石から、消費する米と種籾のぶんを差し引くと、7石2斗。これを売ると7両余になる。野菜収入の4両と合わせて、11両余の現金が残る。

次に、家計の支出について。
 塩・茶・油・紙 2両
 農具・家具   2両
 薪・炭     1両余
 衣料      1両2分余
 年末年始節句忌仏等入用 2両余
 親類友人交際費 1両

これでお金はほとんど残らないという。
健康を損なって仕事を長期に休めば、収入は減る。「これにて農夫の辛苦を知べし」という。

贅沢ができる暮らしではないが、食費を除いて11〜12両の家計は、新しい衣料も購入できる普通の暮らしではあろう。
親類友人関係の支出には、援助の性質の支出があるので、逆に援助される年もあるだろう。

蛇足ながら、夫婦が1年で食べる米麦が、4.6石余ということについて。
一人分は、2.3石、これは1日で6.3合になる。
宮沢賢治の有名な詩(雨ニモマケズ)では、「1日4合の玄米」とあり、この場合、100日で4斗、365日で14.6斗つまり約1.5石である。
夫婦の一人2.3石は多めだが、副食費などを説明から省いたために、多めなのかもしれない。
ちなみに大工の日当350文は、月20日働けば月収1両と少しになる。年13両ほどだが、ここから食費と家賃などを支払う。年貢は大家が納める。
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