沖縄の地名「ハンヂャ」

宮城真治著『沖縄地名考』(名護市教育委員会)を興味深く読んでいる。
そのうち「第二部 沖縄地名論考」の「第三章 羽地という地名の本義について」が、大変面白いというか、論争がらみでもあり、著者の筆が最も熱っぽい部分でもある。

そこで語られていることは、(国頭郡の)羽地について、
今はハネチと読まれることが多いが、地元の人はパニヂと言っている。地名に無理に漢字を当てはめ、後に漢字の読みにつられて地名の呼び方も変ってしまうことがあるらしい。
パニヂが本来の名前であることを想定し、元の意味を知るには、県内他所で似た発音の多数の地名を調べ、それらから類推して行く、というのが著者の方法である。これは有効な方法なのではないかと思う。

パニヂに似た地名には、ファンヂ、ハンヂャなどがある。
国頭村の半地(ファンヂ)は、「やや流れの早い川の河口の両岸に跨っている所」(同書、以下同じ)で、ファイ(走)ミヂ(水)の意味ではないかという。
羽地村にもハンヂャーガーという井(泉)があり、ガーは川のことなので、ハンヂャも「走イ水」の意味だろうという。
伊江村の川平は、地元の年寄はハンヂャと言っていて、「泉の下方に位する部落」であり、これも「走イ水」だろうという。
摩分仁村の波平(ハンヂャ)は、元は「ハンヂャガーという井があり」「清冽なる水が岩間より湧き出て、常に井に溢れ、小さな溝もなして下の田圃に流れ込んでいる」という。これも同様で「もと泉の名であったのが後に地名となったものであろう」という。
他にも多数の例が書かれているが、ハンヂャは、沖縄では少なくない地名であり、泉のこと、その流れのこと、流れの両岸の所のこと、という意味があることがわかる。

では、沖縄でハンヂャと呼ばれる地名と、同じ系統の地名が本州にもあったとするなら、多少は語形は変化しているだろうが、どんな地名であろうか。

昔読んだ本で、北海道の羅臼岳と、本州の茶臼岳、茶臼山は、同じ言葉であるという説なのだが、誰の本かは忘れてしまった。ラ→ダは、幼児がラジオのことをダジオというのと同じであり、ダとヂャは断定の助動詞「運転手ハ君ダ」〜「君ヂャ」というのと同様の転訛であると。したがって、ラからヂャへ転訛することがありうるわけで、日本語(大和言葉)の語頭にラ行の音は立たないこともあり、ラウスは、チャウスとなったのではないかと。(山頂が1つではない山をいうようで、前方後円墳を茶臼山という例もある)

ラからヂャへの転訛となると、ハンヂャの元はハンラということになる。
ハンラとは原(幡羅など)のことであり、意味もハンヂャに近いことは、これまでも書いて来た。
詳細は今後の課題である。
パニヂは、土師(はにし)にも似ている。

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