みかの原 わきて流るる

「原という地形」シリーズ。今回は百人一首に詠まれた「原」6首。

  みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ  中納言(藤原)兼輔

みかの原は、京都府南部の木津川市にある小盆地で、いづみ川は、盆地を東から西へ流れる今の木津川のこと。聖武天皇の恭仁京のあった地でもある。

みかの原から湧き出で、みかの原を二つ分けて流れる、いづみ川。いつ逢ったといって、こんなにも恋しいのだろう。
「いつ見きとてか」の解釈がいろいろあり、逢ってないとする解釈もあるようだが、ここはやはり逢ったと解釈すべきだろう。
「か」という疑問符は、「見き」ではなく「いつ」につながるものであろう。百人一首の紫式部の歌に「見しやそれとも わかぬ間に」とあるが、この場合は、見たかどうかもわからない意味だが、「いつ(何時)」という言葉がある以上、不確定なのは、逢った時期である。
お逢いしたのは、いつのことだったか、それ以来もう何年も何年も恋い悩んだような、それほどの恋だと言いたいのだろう。
そして、二人の間を分けてしまったように流れる、いづみ川。恋の相手は、この川の対岸にいるのだという想像も可能である。どこか棚機姫の伝説につながるところもある。女性に身をやつした歌でもあろう。あるいは恭仁京の遠い昔を慕ぶ歌でもある。こういう歌が名歌とされるのだろう。
みかの原については、湧き水や河川段丘のある扇状地であり、原の原義に近いものといえる。

百人一首のそのほかの「原」を詠んだ歌。
  浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき  参議(源)等
  有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする    大弐三位(藤原賢子)

篠原、笹原ともにイネ科の植物名を冠したもので、葦原と同じで、湿地帯でもあるのだろう。

  天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも     阿部仲麻呂
  わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟  参議(小野)篁
  わたの原 漕ぎ出でてみれば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波  法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)

わたの原は広い海、天の原は広い空を意味するわけだが、地形を意味する原の比喩表現と仮定するなら、原の意味が拡大してからの語法ということになる。

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