『江戸方角』

【古文書倶楽部2016-9】


岩 西久保 金地院
神明 烏森 増上寺
三田 春日 魚籃 太子
堂 日本榎 品川 庚申
堂 東海寺 末之方は
永田 馬場 山王 溜池


この文書は、『江戸方角』と呼ばれる手習いの教科書のようなもの(の一部)。内容は、見ての通り、江戸の地名名所尽で、地名の羅列である。
江戸時代に子どもたちが手習塾で師匠に付いて、声を出して読みながら、字を書き写し、文字を学んだもの。

『NHK趣味悠々 古文書を読んでみよう』(2001年)にも、江戸に近い世田谷太子堂村に保存されていた『江戸方角』が載せられている。安政のころのものという。「世田谷地域の子供たちが、将来江戸とのかかわりで暮らしを立てるようになることを予想して学ばせていたのではないか」との説明もあった。

ここに掲載のものは、武蔵国のだいぶ外れの村に伝えられたものである。遠距離なので江戸に野菜を売りに行くようなことはなかったと思うが、そういった実利だけで人が動くわけでもないのだろう。遠隔地の人々も、江戸やさまざまな地方の地名への関心はあったと思われる。
たとえば、芝居や物語や俗謡などに出てくる江戸の名所や地名。旅の人たちが聞かせてくれる話に出てくる地名。
大人になってから名主の代理として江戸に出府するときのために、というのは実利だが、目的地を単に往復するだけでなく、見聞を広めるための行動もあり、帰村した者から土産話などを村人はよく聞いた。
さまざまな土地やそこの神仏の話などに、人々の関心が広がって行った時代だった。
-------
以上は、以前「古文書倶楽部」というブログに書いたものを今回修正して載せた。そのブログは続かなかった。8年前のことだった。
comments (0) | trackbacks (0) | 編集

Comments

Comment Form

icons:

Trackbacks