深谷方言小辞典
この小辞典は、平成三年から十二年までの間に、土地の老人などの実際の会話から、少しづつメモしておいたものがもとになっている。見出しその他、発音をわかりやすくするために、現代仮名遣とした。ついでに解説文も現代仮名遣となった。マル数字は金田一京助編纂の辞書で使われるアクセント符号で、「深谷」は尻上がりで◎(0)、「大宮」は2〜4までが上で次の助詞が下がるのでCとなる。
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平成30年7月、辞典などの出典を追記などの加筆。
行かっといいA 行かずともよい。「行かっとよかんべ」とも。
いぶる[ラ五]◎ ぶつぶつ不平を言う。不満な態度を表す。
いやんばいす@ いい按配です。挨拶の「今日は」の意味で使う。
いら[副]@ 「えらく」の転か。非常に、大変に、多くの意味。「いら怒るなぃ」など、良い意味の言葉には続かない。今は「大変良くできました」と言うが、「大変、非常」など程度のはなはだしいことをいう副詞は、もとは文字の通りの意味で、良い意味には使われなかった。時代とともに用途が広がってきたもので、「全然」も程度のはなはだしい意味とされれば、「全然良かった」という使い方も、日本語の乱れとはいえないかもしれない。
うなる[ラ五]A・うなう[ワ五]◎ 田畑を耕す。「うね」を作るの意味か。
うらうらする@ うろうろする。うろうろ歩き回る。主婦があまり家にいないこと。
うんまける[下一]◎ 容器の中のものを引っくり返して出したり、撒き散らすこと。
おおさきどうかD 尾裂稲荷。秩父周辺地方などで動物霊による憑物の一種をいう。
おこさまC お蚕さま。
〜おさんないA 〜したくとも充分できない。
おっぱたき◎ 売れ残りの娘。
おっぺす[サ五]B 押す。
かくなす[サ五]B 隠す
かくねる[下一]B 隠れる
かくらん(する)B 「鬼の霍乱」のかくらんだが、サ変動詞化する。
がちゃぽんポンプD 井戸水を汲むために設置された手押しのポンプ
がれる[下一]A 枯れる。老人がくたびれてくることにも言う。
かんます[サ五]◎ かき混ぜる。
きびしょ◎ きびす。急須。
きょしょっぺC 妙にきれい好きな人のこと。
きょしょっぺぇ[形]C 妙にきれい好きであること。
ぐんじがる[ラ五]C くねや柵植えの作物などが直線に並ばずに、不並びであること。地方独特の言葉と思う。語源を想像すると、日本語では「ナ行+し」が「んじ」となるので、「ぐん」はやはり「くね」と関係あるか。「がる」は「離る」かもしれないが、こんな解説では出来過ぎかもしれない。
〜げ 形容動詞の活用。語源は気(け)か?。 無さげだ(無さそうだ)、有るげだ(有りそうだ)、居なげだ(居ないようだ)、良さげな(良さそうな)。晴れるげだ(晴れそうだ)
けなりぃ[形]B うらやましい。古語辞書にある「異(け)なり」と同じ意味で、気持が通常でないことからきた言葉。だから「けなるい」とはあまり言わない。岐阜県出身の勝川克志氏のマンガにもあった言葉。
けなるがる[ラ五]@ うらやましがる。
小一時間@ 「小半時」とは半時のさらに半分のことだが、小一時間は半時間(30分)のことではなく、一時間弱の意味で使われる。
こーたれる[下一]◎ 叱られる。「頭(こうべ)を垂れる」の意味か。
こじはんB 小昼飯(こぢゅうはん)。午後3時ごろの労働の合間に食べるおやつのこと。芋や唐茄子(かぼちゃ)を煮たものや、焼餅(中身は小麦粉や残飯に野菜)など。5時半でもないのにコジハンとはこれいかに、などと言って食べた記憶がある。
こそっぺぇ[形]C のどに飲み込んだ食物などがひっかかる感じがする。のどの通りが悪い。
こきたねぇ[形]@
こにくらしい[形]@
こっぱづかしい[形]E 少し恥しいという意味ではない。「きたない」「憎い」などの言葉は、特に女性では直接口にするのがはばかれるので、それを和らげるために「こ」をつけるのだろう。
ざぐり◎ 繭から糸をとるときの糸巻の道具。
三百代言D 詭弁を弄すること。その人。辞書にある。
しいな◎ 古くなった種もみ。
じぇね@ 銭。「ぜね」とも。
しのぎ@ 葬式で親戚などにふるまう簡素な食事。一時しのぎのような簡単なものが多いが、「精進料理の儀」を略して「シの儀」としたものと思われ、江戸時代の歌舞伎若衆の隠語で用例がある(下中弘『大辞典』平凡社)。
しもたや◎ 昔の繁栄を過ぎて傾いてきた商店のこと。「仕舞た屋」
じゅく(言うな)A 「じゅく」は「自由句、自由口」のことで、「じゅく言うな」とは自分勝手なことを言って周囲を困らせるなの意。「じゅくべぇ言う」(自由句ばかり言う)。
〜じょっき@ 「茄子じょっき」といえば茄子を材料にした料理ばかりのこと。「ぞっき」の訛り。
しょっぺぇ、しょっぱい[形]B 垢抜けない身なりなどのこと。
じんぎを言いに行く@ 人の死の知らせを聞いてすぐに別れの言葉を言いに行くこと。漢字で書くと「贐儀」で、別れのはなむけの意味。「仁義」ではないだろう。「贐儀」は広辞苑第四版にあったが、後の版にはない。井之口章次『日本の葬式』(ちくま学芸文庫)では「仁義」と書いているが、村人がどういう字を書くかと聞かれたら「仁義」と答えるかもしれないが、死亡直後しか使われない言葉なので、「贐儀」とみるべき。
じんじく(する)@ 後から付加されたものなどが、周囲と釣り合いがとれてぴったりしている。ふさわしいものとして馴染んでいる。「純熟・淳熟」(じゅんじゅく)の訛り。訛り方は、新宿(しんじく)などと同じ。
砂ずり(する)C 土壁を塗るときに、砂とのり(にかわ)を混ぜて塗ること。
すらっこと◎ 空っ事。空虚な嘘や空想。「せらっこと」とも。
すらっぺぇ[形]C 嘘のようで信じ難いこと。
すれっからし◎ すれた娘のこと。
タイワ◎ タイヤ。輪の形であることからワと変化したもの。
たんと[副]◎ たくさん
ちがい◎ 作物が凶作であること。
ちっと[副]@ 少し。
ちっとんべ◎ 少し。
でーこ◎ 大根。
てたれた[形動]A かどのとれた円熟した人を「てたれた人」という。下一段化して「てたれる」とも。 「手足、手練」(てだり、てだれ)(技能が熟練していること。その人)の変化形と思われ、精神的な円熟をいう。
てらかん◎ はげ頭のおやぢ。またはおやぢのはげ頭のこと。映画俳優か登場人物の姓名からきたものか。
てんとさま@ お天道さま。太陽。
どっくむ[マ五]◎ 飲み込む
とんなもんだい、おぎののもんだい 地口。深谷市東方で聞いた。
とんばか◎ トンマでバカの意味。とぼけていること。その人。
なから[副]A だいぶ〜、相当〜の意味。
なす[サ五]@ 借りたものを返すこと。
なるい[形]A 人や動物が人なつっこいこと。「なりぃ」とも。
なんでかんで[副]◎ 何が何でもの意味。
にしめる[下一]B 白っぽい色の野菜などを、汁の色が染み込むまで煮ること。「煮しめたような(色の)シャツ」とは黄ばんだシャツのこと。
にぼうと◎ 幅広の麺を野菜などとともに煮込んだ郷土料理。夕食に大量に作り、翌日の朝と昼もこれで間にあった家も多かった。何度も煮直すと、汁も粥かすいとんのようにねっとりとしてくる。ホウトウは漢字では「食ヘンに専」と「食ヘンに托のツクリ」の二文字。(餺飥 JIS第一第二にない文字)
入梅◎ 梅雨入りの意味のはずだが、梅雨の期間をいう人が多い。「今年の入梅は長い」
ねり@ 楡。「ねりやま神社」など。福井県方面のある地域でもいうらしい。
のくとい[形]B ぬくたい。温かい。
のじきる[ラ五]@ でしゃばりで、どこでも出て言ってその場を仕切ること。威張る。「伸し切る」。
のっこむ[マ五]B 押しかけ女房になる。
のて@ 破天荒なことをする人。粗野な言動をする人。
のめっこい[形]C 親しい関係にあること。
乗合バスD 俗に言う共同便所のこと。方言とはいえない。
のんぼ猫C のら猫。家に帰らない猫。あまり家にいない主婦など、人に喩えてもいう。「のんぼ猫になる」
はあ[副]@ はや。もはや。もう。
はんでぇB 稲架。
ひすたれる[下一]@ ?
ひすばる[ラ五]@ 干窄る。干からびて伸びきってしまうこと。猛暑のときの犬猫の姿勢をいうこともある。
ひっこしがないB 意気地がない。「引く腰」の意味か。アクセントは「っこ(3)」が上で「し」が下。古今亭志ん朝の落語でも聞いたがアクセントは「引越◎」と同じ尻上がりだった。
ひっちまじる[ラ五]B つねる。
ひっつばく[カ五]C 無造作に破くこと。
ひとぼっちB ゆでたうどんの一かたまり。2つなら「ふたぼっち」。
ひとっちゃべるAC シャベルで掘るときの深さの単位。シャベルの皿状の部分の長さ。
ひぼっこ◎ 紐。「ひもっこ」とも。
ひゃくしょっぺD 貧乏人根性の人。
ふったかる[ラ五]◎ その家に金運が寄り付いてくること。
ふんじばる[ラ五]C 縛る。
ほうりき落とす[サ五]E 放り落とす
ほうりき出す[サ五]D 放り出す
ぼっこす[サ五]B 壊す。
ぼっこれる[下一]◎ 壊れる
ぼっこれテープD 壊れたテープレコーダー。同じ話を何度も繰返すたとえ。
まっつぐ[副]B まっすぐ
まっと[副]@ もっと
まんからC どこまでホラか本当かわからないことを言う人のこと。
婿取りのはりまたぎ ののしっていう言葉。梁(はり)を跨ぐことか。裁縫道具の物差しは跨ぐなというが、針は跨ぐというほどの大きさではないので、梁のこととみたいが、不明。
〜むし@ 群馬県の山村部などでは目上の人に語るときに「晴れて来たなぁむし」などといい、「主、大人(うし)」から来た言葉のようにも思える。当地では滅びかけている言葉で、ある老人がある感情からとっさに使った例では、哀訴の調子にも聞え、上下の関係なく使った。「そんなことがあるむし」(「それはないでしょ○○さん」といった感じ)
やけっぺし◎ やけど。
やっこい[形]B 柔らかい。「やぁらっけぇ」とも。
よいっと[副]A たくさん。ものがいっぱいあること。