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       月々の歌 平成15年

 平成15年 1月上旬の歌 関東では数十年ぶりの雪の三が日となりました。
新しき年の初めの初春の、今日降る雪のいや()け。吉言(よごと)  大伴家持

 1月中旬の歌 初夢の歌
ながき夜の遠の眠りのみな目ざめ波のり船の音のよきかな  (回文歌)

 1月下旬の歌 まもなく節分です。楡山神社を始め、深谷地方では節分行事が盛んです。
年ごとに人はやらへど、目に見えぬ心の鬼はゆくかたもなし  賀茂安憲女

 2月上旬の歌 節分。
ももしきの大宮人も聞きつぎて鬼追ふほどに夜はふけにけり 藤原家良

 2月中旬の歌 初午祭を新暦2月の立春後の最初の馬の日とする場合が当地域では多い。
如月や、今日初午のしるしとて、稲荷の杉はもとつ葉もなし 夫木抄

 2月下旬の歌 菅原道真が九州大宰府へ赴任したのは旧暦1月25日といふ。
こち吹かば匂ひおこせよ。梅の花。あるじなしとて春な忘れそ

 3月上中旬の歌 上海事変早期終結に際しての昭和天皇の御製
をとめらの雛まつる日に戦をばとどめしいさを思ひ出でにけり

 3月下旬の歌 春分から5日間が七十二候のうちの雀始巣(雀始めて巣くふ)
思へただ雀のひなを飼ひおきて巣立つるほどは悲しきものを 源通親

 4月上旬の歌 先の大戦で最愛の養子を失った釈迢空の歌
たたかひに果てにし子ゆゑ、身に沁みて ことしの桜あはれ。散りゆく 釈迢空

 4月中旬の歌 桜の咲き具合を見て種まきどきとした地方は多い
あしひきの山のさくらの色見てぞ、をちかた人も種はまきける 紀貫之

 4月下旬の歌 晩春の沢辺で遊ぶ若い馬を詠んだもの。「ちかつ拾遺続々」参照
立ちはなれ沢辺になるる春駒はおのが影をや友と見るらん 源兼長

 5月上旬の歌 茶摘みの季節。
夏くれば見まくほし野の少女ども いかにむれてか木の芽つめると 大隈言道

 5月中旬の歌 端午の頃あやめの葉を軒端に挿して魔除けとした。それが「あやめふく」
あやめ葺く軒端すずしき夕風に山ほととぎす近く鳴くなり 二条院讃岐

 5月下旬の歌 まもなく麦刈りの季節。雨の多い時期で昔は乾燥が大変だったらしい。
刈り上げし畑の大麦こきたれて降る五月雨に干しやわぶらん 香山景樹

 6月上旬の歌 甘酒は長命を祝ふもので、夏の飲物だったことは延喜式にもあるらしい。「こざけ」といった。
いく千代も絶えず供へむ。六月(みなづき)の今日の醴酒(こざけ)も君がまにまに 今小路良冬

 6月中旬の歌 田植。古くは女性だけの仕事で、年齢に関係なく早乙女と呼んだ
早乙女の山田の代に降り立ちていそぐ早苗や。室の早わせ 藤原国成

 6月下旬の歌 紫陽花をうたった万葉歌
あぢさゐの八重咲くごとく、八つ代にをいませ。わが背子。見つつしのばむ 橘諸兄

 7月上旬の歌 旧暦6月30日の夏の最後の行事である夏越の祓は新暦だともう済んでゐる
水無月のなごしの祓へする人は千歳の命のぶといふなり 拾遺集

 7月下旬の歌 旧暦七夕の夜を通して里芋の葉にたまった露は、無病息災また女性の美容にも良いといふ
銭金はもたれぬものか、芋の葉にたまれば落つる露の玉銀 書出田丸

 8月上旬の歌 今年は梅雨が長かったが、次は雨乞の歌で最も有名なもの。
ちはやふる神も見まさば立ちさわぎあまのとがはのひぐちあけたまへ 小野小町

 8月中旬の歌 一年の半分を過ぎた旧暦7月に古くより先祖の霊祭が行なはれた。仏教と習合して以降お盆ともいふ。
今日とてや内蔵(くら)の司もそなふらん。たままつるてふ七月(ふづき)半ばに 今小路良冬

 8月下旬の歌 稲妻が落ちると、その霊が稲と結合し、稲の豊かな稔りをもたらすといふ。稲の夫(つま)の意味である。
足引の山田を植ゑて稲妻のともに秋には逢はむとぞ思ふ 紀貫之

 9月上旬の歌 野分(台風)を歌った代表的な歌。百人一首より。
吹くからに秋の草木のしをるれば、むべ山風を嵐といふらむ 文屋康秀

 9月中旬の歌 相撲はその年の豊凶を占ふ神事だったが、宮中では七夕の詩宴の日に行なはれたといふ。大相撲の部屋名や年寄名は、良い名ばかり。
長月の力あはせに勝ちにけり。わが片岡を強く頼みて 西行

 9月下旬の歌 
庭草に村雨降りて、こほろぎの鳴く声聞けば、秋づきにけり 万葉集

 10月上旬の歌 稲刈の季節
秋田刈る仮廬を作り廬りしてあるらむ君を見むよしもがも 万葉集

 10月中旬の歌 萩は日本の秋を代表する花といえる
宮城野の露ふきむすぶ風の音に小萩がもとを思ひこそやれ 源氏物語

 10月下旬の歌 次の万葉集の歌は松茸を歌ったものといふ
高松のこの嶺も()に笠立てて満ち盛りたる秋の香の良さ 万葉集

 11月上旬の歌 ははそ(柞)の紅葉を歌ったもの
夏の日はかげにすずしみ、片岡のははそは秋ぞ色づきにける 能因







       月々の歌 平成14年

 八月上旬の歌  八月一日は武蔵一宮氷川神社の例祭です
父帝、氷川の宮に詣でしし昔をしのびみ栄え祈る 北白川房子

 八月中旬の歌 旧のお盆です
末遠き家の栄えをなすものは本を忘れぬ心なりけり 千家尊福

 八月下旬の歌 盆送りも済み、富士吉田の火祭もあります
麻殻の燃ゆるかぎりを別れにて霊送りする杉の下門 大隈言道


 九月上旬の歌 九日は重陽の節句 菊酒で長寿を祝ったのは旧暦だが
長月の九日ごとにももしきの八十氏人の若ゆてふ聞く (古今十帖)

 九月十五日は京都の石清水八幡宮の例祭です
 元は旧暦8月15日で十五夜の日ですが、上野台八幡神社も同じ日でした

石清水すみける月の光にも昔の神を見る心地する 後鳥羽院

 九月下旬の歌 
少女らに行相(ゆきあひ)の早稲を刈る時になりにけらしも。萩の花咲く 万葉集2117


 十月上旬の歌 天高く馬肥ゆる秋といふわけで
わが背子は駒にまかせて来にけりと、聞きに聞かする轡虫かな 和泉式部

 十月中旬の歌 各神社とも秋祭が行なはれます
豊かなる年の初穂をささげつつ しづもあがたの神まつるらむ 明治天皇御製

 十月下旬の歌 秋の七草。尾花とは芒、朝顔とは桔梗のこと
萩が花 尾花 葛花 撫子の花、女郎花また藤袴 朝顔の花 山上憶良


 十一月上旬の歌 紅葉の季節。旅の安全を祈る、神への手向けの歌。
このたびは(ぬさ)も取りあへず手向山 紅葉の錦 神のまにまに 菅原道真

 十一月中旬の歌 小春日和の日には日向ぼっこでも。大阪市の桜宮神社が移転する前の歌らしい。
帰り咲く花もありやと尋ね見む。小春のどけき桜野の宮 熊谷直好

 十一月下旬の歌 新嘗祭の時期です。次の御製は陛下の皇太子時代のもの
神遊びの歌流るるなか、告文の御声聞こえ()新嘗(にひなめ)の夜 


 十二月上旬の歌 元禄15年12月14日、吉良邸討入りの前に俳人の宝井其角と赤穂藩浪人大高源吾が交したといふ歌。
年の瀬や、水の流れと人の身は/あした待たるるその宝船 

 十二月中旬の歌  鷹狩は冬の行事。
降る雪のしらふの鷹を手に据ゑて、武蔵野の原に出でにけるかな 賀茂真淵

 十二月下旬の歌 この歌が良いと思ふのは少し歳をとったか?
除夜の鐘つきをさめたり。静かなる世間にひとり、わが怒る声 釈迢空