楡の小百科

 楡とは (植物学など)
楡とは
 楡は、ニレ科ニレ亜科ニレ属のハルニレ、アキニレ、オヒョウなどをいひ、普通にはハルニレのことをいふ場合が多い。
 ニレ科にはエノキ亜科に分類されるエノキ、ケヤキ、ムクノキなどもある。
 古名の「槻」はケヤキのことともいふが、ニレ科の樹木の総称ともいふ。

ハルニレ
ハルニレ  北地では堂々とした大木のみられるニレ科の落葉高木。アイヌの祖神アイヌラックルはハルニレ姫と雷神の間から産まれたと伝承されている。単にニレともいう。高さ30m,直径1mに達し,幹の樹皮は灰褐色で縦にやや深い割れ目がある。広く枝を張り,大きな樹冠をつくる。枝にコルク層が発達して,こぶやひれをつくることがある。葉は互生し,倒卵形ないし倒卵状楕円形で,先が急にとがり,基部は左右不整,長さ3〜12cmで,7〜13対の平行な側脈があり,縁に重鋸歯がある。
 5月前後に,葉より早く前年枝の葉腋(ようえき)から7〜15個ずつの花を束生する。花被(萼)は鐘形で,上縁が4裂し,4本のおしべと1個のめしべがある。6月ころ長さ1cmほどの倒卵形の翼に囲まれた堅果を結ぶ。
 材は褐色,狂いがはなはだしいので,土木用,小器具,箱,シイタケのほた木,薪などに供されるのみである。樹皮の繊維で縄をつくる。
 九州本島以北の各地と,朝鮮,中国北部・東北部の温帯に分布し,とくに北方の肥沃な洪積平原に多い。札幌などでは大木が緑陰樹として残されており,北海道大学構内ではエルムの名で親しまれている。道内ではアカダモの名も通る。
アキニレ  アキニレ(漢名榔楡(ろうゆ))は高さ15m,径60cmになり,樹皮が鱗片状にむけて斑紋が残る。葉は長楕円形で長さ2.5〜5cm,鈍鋸歯がある。秋9月ころ,本年枝の葉腋に4〜6個ずつの花をつけ,花被は4片に分かれる。翼果は広楕円形で,10月に熟す。中部以西の本州,四国,九州,台湾,朝鮮と,中国南部の暖帯と亜熱帯に分布する。(平凡社世界大百科事典・浜谷稔夫)(写真2点:講談社「大図典」より)

重修本草綱目啓蒙
 楡 ヤニレ(和名抄) ニレ(今名) ネリ(越前) ネレ(木曽) …
 春ニレ、秋ニレ二種あり。春ニレは春先花さき、実を生じて後新葉を生ず。実は固く薄く、大さ三分許、内に小扁子あり、是を楡莢とも、楡餞とも云。葉は桜葉に似て短く互生す。この木寒地に生ず。南国には産せず。木の粗皮を去り、白皮を採り薬用とす。楡白皮といふ。又食料にも入る。本邦にても上古は用ひしこと、延喜式に見たり。唐山にてはこの木に生ずる菌を食料に上品とす。之を楡肉と云ひ、又楡耳と云ふ。

紀伊続風土記 物産〕
 楡に二種あり。春ニレは漢名白楡といふ。東北の国に多く南国に産せず。秋ニレは漢名榔楡といふ。本国各郡山野に甚多し。典薬式に、紀伊国楡皮九斤とあるは、此榔楡皮なるべし。

重修本草網目啓蒙
 榔楡 アキニレ イタチハゼコ(大和) イヌケヤキ(阿州同名あり) ネレノキ(同上) カハラケヤキ(丹波) 
 水辺に多く生ず。大木なり。葉の形橢にして尖り、辺に鋸歯あり、互生す。葉に沙ある者を刺楡と云ひ、沙なき者を線楡と云ふ、皆榔楡なり。八月葉間ごとに花を開く。黄白色なり。後莢を結ぶ。楡餞の形に異ならず。熟すれば早く落ち散す。冬に至れば葉みな凋落す。
 増 一種蝦夷の産にアツと云ものあり。誤てアツシとも呼ぶ。春月新葉を生ず。形榛の葉に似て長さ三四寸、本は狭くしてー寸許、末は広く二寸余、葉頭に岐ありて矢筈の如く互生す。この木大木となる。蝦夷人この皮を剥て紡績して布とす。これをアツシと呼ぶ。夷人の常服なり。又蝦夷にては、此木を以て小き盤を作り、中を凹して同木の棒を以て摩て火を取る。その盤をシヨツポと云ひ、棒をカツチと云ふ。既に燧火の條に弁ず。又一種花戸に鉄刀木と呼者あり。春新葉を生ず。加條の葉に似て鋸歯粗く、皴文ありて互生す。これに一種枝幹共に巨羽を生ずる者あり。共にニレの類なり。
 ※アツシは、ニレ科ニレ属のオヒョウの樹皮の繊維などをいふ。

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