近世の新田開発

【古文書倶楽部2017-2】
菊地利夫著『新田開発』至文堂 1963
近世の新田開発についての、さまざまな角度からの概説。
ぱらぱらと拾い読みしたが、新発見などあり。

個別の田畑の年貢の基準高となる石高を決めることを「石盛り」といい、江戸時代の平均は、中田なら1反=1石だが、それよりもかなり高いときは「かぶせ盛り」があるとのこと。それにはさまざまの特殊事情があるという。
「かぶせ盛り」の用語は初めて知ったのだが、畑についてはたぶんそういうことだだろうと思っていた例はいくつか知っていた。その例の1つは、国定忠次の出た上州国定村について、畑の年貢が永140文ほどで、武蔵北部の永96文よりだいぶ高いのは、上州では養蚕が盛んな地域で現金収入が多いことが見越されて高いのだろうと思っていた。もう1つは武州の畑作地帯に僅かの田があり、年貢は高めで5斗を越えていたのは、おそらく自然の湧き水が形成した沼などを田としたもので、土地が肥沃で水も良質ということではないかと思った。おそらくそれで間違いないことは、この本に書かれているくつかの実例から、わかった。

新しい新田では、農民が開墾したものなら、開墾から一定期間は年貢が免除ないし格安になるのだが、逆に高い例もある。これは、官営の新田を、格安で農民に払い下げたため、開墾費用の元をとるために高めの年貢となるそうである。最初は格安でないと農民は手が届かない。
年貢を高くした事情の中には、検地帳に記された田畑の面積とは違い、実測面積が2倍ほどになる例もあったとのこと。計測に使った縄が延びていたということから「縄延」という。新田開発時の減免措置の1つとして、年貢を減らすのではなく、意図的に縄延という方法をとったが、年月が経過したあとで再測量はせず年貢を上げたということだろう。
「縄延」は、略して「延び」と言い、現代でも使われる言葉である。宅地にしろ田畑にしろ、実際の面積は登記面積よりも多いのが普通である。明治のころは、民間の測量士を育成してかなり正確な地図などを作らせもしたが、田畑についてはどの程度の延びを認めたであろうか。実際とは別に江戸時代の検地帳に「一反」と記載された田畑は、明治になっても「一反」なのではないかと思うが、当地では三角測量の計算図などが大量に残されているので、近世初期の延びよりは実際に近かったようにも思えるが、なんともいえない。明治政府の役人が測量したのではトラブルが起こりやすいと見たためなのかどうか、とにかく民間の農民の一人がやりかたを学んで測量した例が多いと思う。全農民に対して平等に延びを扱わねばならないので、大変な仕事だ。昭和になると、田では耕地整理などがたびたび行われ、そのたびに登記面積と実測面積は近づいているのではないかと思う。畑は市街化などで区画整理がなければ、明治のままだろう。江戸時代の延びの平均がどれくらいだったかは、わからない。

江戸時代の1反当たりの米の収穫量について、推定する試みがある。昭和と比較して明治はこれだけ少ないので、江戸時代はもっと少ないだろうという想像である。しかし、昭和の1反と江戸時代の1反では、実際は同じ面積ではない。したがって、単純な計算や想像よりは、江戸時代の「1反当たり」収穫高は多かったわけである。

司馬遼太郎の対談集『土地と日本人』によると、日本の国土の大半を占める山林について、民有林では所有者が誰で面積がどれくらいなのかは、いまだに闇の中にあるらしい。山林は官のもの、将軍様のものとして立ち入らない(唯一の入会権は厳格なものとなる)のは江戸時代の話なのだが、その後は官でさえ立ち入れないのかどうか。

さて、この本の「さまざまな角度や視点」とは、土木技術、経済史、農政史などである。環境学や人口学の観点からのものを読みたかったが、1963年という時代では、そこまでは望めないのかもしれない。その理由で拾い読みになった。
環境学とは、大石大三郎著『江戸時代』で、江戸時代初期の新田開発により、森林が過剰に開発されて洪水が多発し、新田開発を自粛する政令が出されたことなどについてである。
本書『新田開発』によると、江戸時代初期の畑作地帯の新田開発の例では、1軒あたり5町歩を基準にしたそうで、ただし畑には堆肥が必要なので、畑5町歩のうち半分は実際は山林で腐葉土を溜めていたとのことである。したがって畑の反当たりの年貢は安くなるわけである。田は川の水に栄養分が含まれる。江戸中期移行では、1軒で1.7町歩程度となり、全て畑として耕作しないと世間並みの収入にはならない。このばあい肥料は金銭で購入するのが近代的なやりかたなのだろう。しかし腐葉土のためだった山林を畑に開発するのは、自然破壊になるかもしれず、そういう研究の本を読んでみたいと思った。
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