楡山神社由緒
旧御神木(写真帳へ)
【御祭神】
伊邪那美命(いざなみのみこと)。一柱。夫の神の伊邪那岐命(いざなきのみこと)と共に、国土や山川草木の神々をお生みになった神。「国生み」の神。
末子に火産霊神(ほむすびのみこと、火の神、愛宕様)をお生みになって後、鎮火の法を教へ悟した神。
左は深谷市出身の画家江森天寿の描いた二神の像(部分)。
【鎮座地】
埼玉県深谷市大字原郷三三六番地。旧埼玉県大里郡幡羅村大字原郷。
旧武蔵国幡羅郡幡羅郷原ノ郷村。
古くは幡羅ノ郡(はらのごほり)といってゐたのを、近世に漢字を改めて原郷としたといふ。
【御社名の由来と御神木・御神紋】
御社名の由来は、御神域一帯に楡の木が多かったことによる。現在も多数の楡の古木があり、北参道入口のほか、正面大鳥居の脇の楡の古木一本は埼玉県の文化財(天然記念物)の指定あり、明治期の文書に樹齢一千年ともいはれた。当社の御神紋の「八咫烏(やたがらす)」は、初代神武天皇の東征の際、南紀の熊野から、翼の大きさ八尺余りの八咫烏の道案内で、大和に入ったといふ故事から、当社が熊野権現といはれた時代に定まったものともいはれる。
【御創立と沿革】
五代孝昭天皇の御代の御鎮座といふ言ひ伝へがあった。大字原郷全域から東隣の大字東方の西部にかけて分布する木之本古墳群(木之本は小字名)は、奈良時代ごろのものといはれ、古くからひらけた土地であることをうかがはせる。現在の末社の天満天神社(富士浅間神社)や知知夫神社も、後世の創祀ではあるが、古墳の塚上に祀られてゐたものである。かつては境内の森の奥にも塚があり、「里人不入の地」といはれた。
延喜年間(平安時代)、醍醐天皇の御代に朝廷の法規などをまとめた書「延喜式」の「神名帳」の巻に、「武蔵国幡羅郡四座」のうちの一社「楡山神社」とある。すなはち朝廷より幣帛を賜った古社であり、「延喜式内社」といはれる。
旧原ノ郷村は、平安時代中期の北武蔵の武将・幡羅太郎道宗の再興になる地域である。神社の南西に史跡「幡羅太郎館趾」がある。当時から幡羅郡の総鎮守、幡羅郡總社といはれ、御社名を幡羅大神ともいった。
康平年間(1058〜1065)、源義家の奥州征伐の時、幡羅太郎道宗の長男の成田助高は、当社に立ち寄って戦勝を祈願したといふ。成田家は後に行田の忍城主となっていったが、当社は成田家代々の崇敬が篤かったといふ。
徳川時代には、旧社家の没落と共に別当天台宗東学院の管理する所となり、「熊野三社大権現」あるいは単に「熊野社」と呼ばれたこともあったが、「楡山熊野社」などとも言ひ、「楡山」の名も失はれてゐなかった。当時より節分の日の年越祭は盛大であり、「権現様の豆蒔」などともいはれた。
明治五年、旧入間県八大区の郷社に制定される。大正一二年県社に昇格。
大正二年、中絶してゐた年越祭を再興。戦中戦後の一時期は中断してゐたのだが、戦後に神職氏子の努力によって復興させ、毎年節分当日は巨万の賽客で賑はひ、追儺の神事や花火(戦前は「おだまき」と称した地域伝来の花火)などの行事が夜遅くまで続く。
昭和三十年代には楡山神社奉賛会を発足させ、基金を募り、社殿の修築や境内の整備に努力してきた。神社の西方の遊歩道は、深谷駅から延びる旧日本煉瓦工場の引込線跡に造られたものだが、深谷市観光協会により、当神社ほか「明治期の建造物を訪ねる散歩コース」に指定されてゐる。
【御社殿等】
○本殿 春日造、欅桧楡材、造営年不詳。明治以前は屋根は桧皮葺で千木と鰹木があり、柱などに葵の紋金具があったといふ。○幣殿 平成十一年、御即位十年記念改築。
○拝殿 明治四十三年御再建。
○神楽殿 昭和十年、参宮記念造営。
○社務所 平成七年改築。旧社務所は元別当東学院御堂を改修したもの。
○幟旗 嘉永五年「旛羅郡總社」と書す。
【深谷市指定文化財】
○鳥居扁額 楡材。佐々木文山筆、「熊野三社大権現」と記す。○石笛(いはぶえ)。海産天然石、長さ一尺一寸。
○和琴(わごん)。
【祭典】
一月三日 元始祭(げんしさい)二月節分 年越祭(としこしさい)
三月三日 祈年祭(きねんさい)鎮火祭(ちんかさい)浦安の舞・豊栄の舞の奉納
四月一五日 愛宕祭(あたごさい)
七月二八日 道饗祭(どうきょうさい)八坂祭
一〇月二〇日 例祭(れいさい) 浦安の舞・豊栄の舞の奉納
一二月三一日 大祓(おほはらへ、おほばらひ)
【末社】(大正元年八月合祀)
◇知々夫神社(八意思兼神・知々夫彦命)◇伊奈利神社(豊受毘売命、大地主命・埴山毘ロ羊命)地神社を合祀。
◇八坂神社(須佐之男命)
◇大雷神社(大雷神、伊邪那岐命・伊邪那美命)三峯神社を合祀。
◇手長神社(天手長男命)
◇大物主神社(三輪大物主命、少彦名命)金刀比羅神社、怡母神社を合祀。
◇天満天神社(菅原道真公、市杵島毘売命、岩長比売命、木花佐久夜毘ロ羊命)市杵島神社、富士浅間神社、小御嶽神社を合祀。
◇荒神社(火産霊命・奥津比古命・奥津比売命、御穂須々美命、天津児屋根命・斎主命・武甕槌・比売命)諏訪神社、春日神社を合祀。
◇招魂社