段丘地形と地名

ここのところ、地名について再勉強。
まづ、谷川健一の対談集『地名の話』(平凡社)では、
巻頭の一志茂樹氏へのインタビューが、地名研究が単なる語呂合せにならないようにするための大事なところが語られていた。そのほか
「上村があれったとすれば、下村もある」
「上村をカサ村というところがある、笠原とは上の原のこと」
「前田。神社や寺や大きい屋敷の前の田、収穫された米は祭礼などで使われる」などなど。

東北に多いタテ(館)という地名については、
古代の柵(き)が原型で城や建物、屋敷ができ、さらに堀や築地などをふくめた全体をタテというようになったという。
しかし、柳田国男の『地名の研究』では、建物がなかったところでもタテという地名があり、タテとは山裾の台地の端の意味だろうとあった。
群馬県前橋市郊外の橘山や、武蔵国橘樹郡(たちばなぐん)などの、タチバナのタチは、台地の端の意味であろう。ハナは塙のことだろうから、これも台地の先端の意味になる。

これらについては、柳田説を注目してゆきたいと考える。というのは、『地名の研究』を読むかぎり、日本の地名で最も種類が多いのは、台地の端、段丘地形に由来する地名(別掲)だからである。同書では、日本に湿地を意味する地名が多いのは稲作が豊かだった証拠というふうなことも書かれるが、より種類が多いのは、湿地よりも、段丘地形に関する地名のようである。
(日本で湿地を意味する地名が多いというのは、これまで地方の研究者たちが、わが村にも古代から水田稲作があった可能性があるとか、古代から先進地域の村だったに違いないとか、郷土愛によるものも多いような気がするが、湿地が湧き水によるものなのか、水はけが悪く河川の大水が引かないだけなのか、区別する必要があるだろう。2020.2.23)

一志氏の本でも、信濃のシナについて、「更級・埴科・仁科とかいうところは、だいたい段丘地形といいますか崖錐地形といってもいいですが、山の麓がテラス状になているところ、もしくは河岸段丘になているところ、扇状地状になっているところ」で、これらが信濃の国名の元の意味であるという。和歌の有名な枕言葉「しなざかる 越の国」「しなてる 片岡山」などが同様の意味のものとして紹介される。片岡山は候補地が複数あるが、大和盆地西部の丘陵の端ないし側の大和川の河川段丘の地であろう。
日本の土地は、起伏に富み、雨量も多く、扇状地地形も多い。その端に崖などがあり、湧き水があり、低地には水田が広がる。台地上には洪水を避けて居住地があり、畑と山林資源もあり、居住に適した地である。集落が複数できて、段丘の形状の違いの名称が集落の名となり、地名として現代まで残ったものもあるのだろう。

『地名の研究』から段丘地形といえるものを、いくつか拾ってみる。
  阿原、片平(沖縄ではヒラ)、真間、コウゲ・カガ・ゴカ、
  タテ(館)、根岸、ハケ(八景)、塙、台、丘
この他に、シナ、片岡などもあり、他にもあるだろう。
「原」も古い地名の多くは同様である。橘は「館+塙」であろう。
タテの元という柵(き)も同種なのだろうが、「キ」のつく地名を調べあげるのは大変だ。
これらは似た意味の地名だが、それぞれの違いについての吟味も必要だろう。

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