古文書入門と基本文書

【古文書倶楽部2016-】
「NHK趣味悠々古文書を読んでみよう」は、2001年にNHK教育テレビで9回放送された番組(講座)内容を、NHK出版が出版したもので、講師は森安彦氏。
副題に「文書で知る江戸の農村のくらし」とある通り、国民の多数が生活していた農村での生活文化について、それに相応しい文書を選んで、文書の読み方や解説を載せている。
その講座でどんな文書が選ばれているかをリストに整理してみて、今後の各村の古文書紹介での「選び方」の参考にしたい。

1?3は手習に関するもの
1、
「いろは覚」 手習の最初に学ぶ、いろは四十七文字の仮名の手本の文字。ひらがな、変体仮名を読み書きするときの手本。
筆者の手元には、子どもが書いたと思われる、いろは七文字を書いた半紙半分の紙がある。

「中浚」 浚とは手習塾での定期的な試験のようなもので、生徒が書いた文字に師匠が朱書きで評価などを加えたもの。
手元にはない(大人の俳句の会で朱入りのものはよくある)
2、
名頭字」 人名に使用される文字を学ぶもの。
江戸方角」 江戸の地名に使用される文字を学ぶ。
手元には江戸方角の断片がある。「近所村々」の四文字で始まる地元(北武蔵)の村名を列挙したもの(呼び名不明)もある。
「自遣往来」 手紙の例文を多数収録した往来物の一つで、自遣往来は江戸とのやりとりの文が多いらしい。手紙は、季節行事や冠婚葬祭に関するものなどである。
手元には、女手のものも含め多数の往来物の書写したものがある。「隅田川御手本」などの物語本もある。

「手習子供名附」 手習塾に通う子どもの名簿。
「寺子教訓之書」 学問とは何かなど、「修身」のような内容。
手元には儒教の用語などが出てくる子ども向けの小さい版本がある。

4?7は、家族内でのもの

「縁談覚書」 縁談の申し入れから結婚後の披露までの経緯を日付順に記録したもの。
手元には、「人別送り状」があるくらいである。通常の手紙の中で、近い日に行なわれた行事への祝意が記されることもある。
「御婿入献立」 今でいう披露宴の料理の献立。
「婚礼餞別貰其外諸式控帖」 御祝儀として受け取った金品の記録。手元には何やら類似の断片があるが、婚礼かどうかは未確定。

「離縁状」 三行半のもの。夫が妻に書く。
手元にはない。普通はないと思う。
「復縁につき禁酒慎み證文」 夫が證人と連名で名主宛に書いたもの。
手元にはない。他村の祭礼での出来事に対する、他村からの問糺し文のようなものはある。
「夫婦取交覚」 老夫婦が相互に取り交はしたもの。隠居宅の問題、老後の問題などの、安心のため。

「家訓」「家訓遺状」 朝起きて何をするかなど細かく書したものが紹介されている。
手元には大正時代の道歌形式のものがある。幕末に高札等から家のために重要なものを抜粋したものなど。
「諸式入用控帖」 日常の支出を記録した家計簿のようなもの。
手元にはない。類似のものは、奉公人の年俸を預り、煙草代や髪結代など必要ごとに支出したときの帳面がある。

「遺言状」 
「譲言」 甲州の名主の家督相続に関するものが掲載。五百石余を所持という。甲州では武士と農民の中間のような存在の者があり、かなり遠方の村々にも土地を所持した例がある。武士の観点からは知行地のようなものだろう。
「辞世の句」
手元には大正時代の辞世の歌を墓石に刻んだものがある。同人の葬儀では、弔いの和歌を多数贈られた。

8 村内の取り決め
「郷中連判議定書」 掲載のものは、畑の作物を盗むことの禁止と罰則、入会地の山林でのルールが書かれる。ここまで罰則などが具体的なものは稀と思う。
手元には、祭礼での取り決め、助郷の村内分担の取り決め、そのほか迷惑防止などの取り決めを、全村民の連名で作成したものがある。
「新屋敷取立て禁止につき取極め證文」 御公儀の方針である分地制限を取り入れたもの。分家の制限であり、名主は20石以上、他は10石以上の家のみ分家を認めるというもの。小規模な農業だけでは生活が成り立たず、仕事も半減し、平穏な村ではなくなる。
手元には、関連の文書として、分家とは逆に、二軒を一軒にする問題で、領主の裁定を仰ぎ、不可となった文書がある。二軒の合一となれば、石高が増え、奉公人を雇って面倒をみれるか、石高に見合った村役の仕事ができるか、寺への負担も二軒分であり、もし安易に土地を手放すことになれば、結局一軒をつぶしただけのことになる、ということだと思う。
「村柄風儀宜しきにつき褒美書」 領主からの表彰のようなもの。

9 旅日記など
「伊勢参宮関所手形」 五街道等の関所の役人宛てのもの。
手元にもある。婿が越後の実家に一時里帰りなどの手形もある。
「名所古跡参詣覚帳」 道中記、旅日記のことである。
手元には、伊勢参宮と西国三十三所の道中記などがある。明治初年のものに朱印帖もある
「旅金小遣覚帳」 旅日記とは別の支出帳。

以上の文書の選び方については、子ども時代の手習に始まり、家族に関するものを多く取り上げ、入門テキストとしては好ましいものと思う。
付け加えるとすれば、農業や機織りなどの実際の仕事に関するもの、村の祭礼、神社や寺の普請、講、道路や橋の保守についてのものなどがある。
水利や助郷に関する近隣の村々との取り決め。など。

この講座では省かれているが、領主との関係の文書。臨時の御用金は、年貢の先納として扱われ、細かな年末調整のような年貢皆済目録。領主(旗本)の返済不能金を帳消しするに際して、領主の家計支出の公表とそれに対する農民の意見書。領主家の葬儀での臨時支出の詳細な公表。など。
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